keine Lust, keine Zeit

映画とか歌のことを考えるブログ

「僕」って誰ですか? あの頃、柴崎コウの「invitation」をボーイズラブだと思ってた

 柴崎コウさんの「invitation」という歌が好きです。



柴咲コウ - invitation


(「なんだこの窪田正孝に激似の少年は……」と思っていたら本人だった……)


 家族が柴崎コウさんのシングルベストを持っていたので、中学生くらいのときからよく聴いていました。今でもウォークマンに入ってます。

Single Best (DVD付初回限定盤)

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 この歌は片想いの歌です。

 男女混合のなかよしグループ。そのうちのひとりに恋をしてしまった。でも他の女の子みたいにかわいい格好はできないし、「君」の気を引く方法もわからない。でもみんなでなかよく遊んでいるんだから、今年の夏も楽しい。「君」がいなくても平気なくらいに。そんな強がりを言ってしまうようなひと夏の思い出。
 
 そんな夏の恋を歌った歌だと思いました。作詞をしたのも歌っている柴咲コウ本人です。

 でも繰り返し聴くうちに「あれ?」と思うようになりました。

懐しのラムネ「?(はてな)」味でも美味しい
甘いくせに潔くて好き 口の中で
あばれ弾けとぶ カプセルたち
なんにも出来ない僕の気持ちの表れ

 僕。

路面電車に乗り ひたすら揺られてみたら
「過ぎた夏の記憶」に収まる
もしかしたら僕ら最後かもしれないけど
頭の中ではずっと続いてゆく one time

 僕……?


 自分のこと、僕としか言ってない……!
 つまりこの歌は男目線ということになる……?

 いやそりゃあ、ボクっ娘である可能性はあります。
 でも理由もなく、あえて歌のなかで女の子をボクっ娘にすることはないと思うんですよね……。

 そこで、この歌は「僕」つまり男目線だという前提で「invitation」の歌詞を解釈してみます。

"夏だから"ボーダーか焼けた肌かワンピース
個性はないけれど可愛くてうらやましい

 夏なのにボーダーもワンピースも着ることができない。他の子がかわいい格好をしているのがうらやましい。
 女の子らしいおしゃれのできない自分を卑下しているのだと思っていました。
 でももしかしたら男だから女の子たちみたいなかわいい格好ができない、ということなのでは……?

去年の誕生日には黒いTシャツをくれた
わざと穴があいてる 袖をとおしてみようか
今年は"なにがいい?" したたか応えられず
見つめてくれていることに満足している

 奥手なんだと思っていました。ワンピースよりも、Tシャツを好んで着るようなタイプの女の子なのだと思っていました。遠回しにしかアピールできないんだと思っていました。
 でももしかしたら男だから積極的にアピールすることができず、見つめてくれるだけで満足してしまう、ということなのでは……?

 そして前述の「僕」の部分。

懐しのラムネ「?(はてな)」味でも美味しい
甘いくせに潔くて好き 口の中で
あばれ弾けとぶ カプセルたち
なんにも出来ない僕の気持ちの表れ

 なぜ「僕」は「なんにも出来ない」のか? それは「僕」が好きになった相手が同じなかよしグループの男友だちだから。迂闊なことをして、友だちとしてすら一緒にいられなくなったら嫌だから。

路面電車に乗り ひたすら揺られてみたら
「過ぎた夏の記憶」に収まる
もしかしたら僕ら最後かもしれないけど
頭の中ではずっと続いてゆく one time

 男同士である「僕」と片想いの相手が結ばれることはないかもしれない。好きという気持ちもいつか過去になってしまうのかもしれない。でもあの夏の恋は思い出としていつまでの「僕」のなかに残っていく。

 と、こんな感じのことを考えていました。

 この解釈に至ったときは、「そんなまさか……? でもそう考えるとなぜか辻褄が合う……」とかなり困惑しました。


 しかしある日、謎は解けました。

 この歌はドラマ『タイヨウのうた』の主題歌だったのです。

タイヨウのうた DVD-BOX

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 話題になった作品なのでご存知の方も多いと思いますが、あらすじを公式サイトから引用しておきます。

山田孝之沢尻エリカ共演の青春ラブストーリー。人生の目的を見つけられずにいる青年と、XPという難病を抱えながら前向きに生きる歌手志望の少女。二人が出会ったことから始まる、ひと夏の物語を描く。(中略)また、沢尻エリカがKaoru Amane名義でリリースした挿入歌「タイヨウのうた」も話題となった。
■XP(色素性乾皮症)とは…紫外線によるDNA損傷が修復されない病気。有効な治療法は無く、徹底的な遮光が必要とされる。
出典:タイヨウのうた|ドラマ・時代劇|TBS CS[TBSチャンネル]

 あらすじにもありますが、このドラマの歌というと沢尻エリカが歌う挿入歌「タイヨウのうた」の印象が強く、ドラマを見ていなかった私は主題歌のことまでは知らなかったのです。

タイヨウのうた

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  • Kaoru Amane
  • J-Pop
  • ¥250


 では『タイヨウのうた』のストーリーを踏まえて、「invitation」の歌詞を解釈していこうと思います。

"夏だから"ボーダーか焼けた肌かワンピース
個性はないけれど可愛くてうらやましい

 ここで一番重要なのは「焼けた肌」です。
 沢尻エリカ演じる雨音薫は病気のせいで、肌を焼いちゃいけない。だから夏でもボーダーやワンピースといった夏らしい格好ができない。
 しかも『タイヨウのうた』の舞台は湘南です。こんなに夏めいた場所で太陽の光を浴びることのできない女の子の、切ない気持ちが表現されていると思います。

去年の誕生日には黒いTシャツをくれた
わざと穴があいてる 袖をとおしてみようか
今年は"なにがいい?" したたか応えられず
見つめてくれていることに満足している

 ドラマの第3話で、孝治(山田孝之)が朝日を浴びてしまいそうになった薫に「紫外線一番通さないの黒じゃねえのかよ!」と言って、自分の着ていた黒いシャツをはおらせるシーンがあります。また第4話では、孝治が薫に誕生日プレゼントをあげるシーンもあります*1
 つまりこの誕生日にプレゼントしてくれた黒いTシャツには、相手を思う優しさが感じられます。

 では問題の「僕」はいったい誰だったのか……?

懐しのラムネ「?(はてな)」味でも美味しい
甘いくせに潔くて好き 口の中で
あばれ弾けとぶ カプセルたち
なんにも出来ない僕の気持ちの表れ

路面電車に乗り ひたすら揺られてみたら
「過ぎた夏の記憶」に収まる
もしかしたら僕ら最後かもしれないけど
頭の中ではずっと続いてゆく one time

 これはどっちも孝治の気持ちですね。つまりこの「僕」の部分は視点が変わっているのです。

 難病と闘う彼女に何もしてあげられない「僕」、20歳まで生きられないかもしれない彼女との思い出をいつまでも大切にしたいと思う「僕」。
 そんな気持ちがこの歌詞では表現されているのだと思います*2

 つまり「invitation」には『タイヨウのうた』をモチーフにした要素がたくさん歌詞に詰め込まれていることがわかります。いい主題歌だなあ。
 コウちゃんごめんね、変なこと考えて……。
 

 しかし『タイヨウのうた』にはもっと驚くことがありました。
 なんとハリウッドでリメイクされるんですよね*3。びっくり。
 
www.imdb.com


 2018年3月30日にアメリカで公開らしいです。日本でも上映するのかなあ。

 それにしても沢尻エリカかわいいな~*4

*1:ドラマの中であげたのはピンク色の紫外線防護服でしたが。

*2:ちなみに主人公の雨音薫(沢尻エリカ)はボクっ娘じゃありません。

*3:映画版『タイヨウのうた』のリメイクです。

*4:当時はまだ直す前なので、左前歯の歯並びがちょっと悪いんですよね。でもそれもこの頃の彼女の魅力の一つだと思います。