keine Lust, keine Zeit

映画とか歌のことを考えるブログ

黄色い花に恋をしたのは誰なのか? 「夏の花は向日葵だけじゃない」の歌詞について考えてみた

 
 欅坂46の1stアルバム「真っ白なものは汚したくなる」を買いました。
 そのなかに「夏の花は向日葵だけじゃない」という曲が収録されています。

 「夏の花は向日葵だけじゃない」は欅坂46のメンバーの一人である今泉佑唯さんのソロ楽曲です。四拍子でテンポは80くらいで、ト長調です。たぶん。
 この曲は、恋が終わっても忘れることのできない、好きな人への切ない想いを歌ったバラード曲です。

 たとえば1番のAメロでは、

あれから恋だってしたけど
他の彼なんか覚えてない
あなたと過ごした青空が
今もずっと眩しく見える

と「あなた」という存在が「私」にとって他の人とは比べようもない、非常に特別な相手であることが歌われています。

 また2番のAメロでは、

何かを忘れようとしてた
だから新しい恋をした
心に嘘をついてみても
片隅の痛み 消えることない

「あなた」のことを忘れるために新しい恋をしようとしたけれど、心の痛みは消えないままだった、という「私」の切ない想いが歌われています。

 そして1番のサビ。

夏の花は向日葵だけじゃない
いろんな種類の花が咲いてるのに
瞳を閉じると浮かんで来るのは
風の中 揺れている
Sunflower

 ここでは「いろんな種類の花」、つまり他にもいろんな人がいるにもかかわらず、「向日葵」つまり「あなた」のことしか思い浮かばない、そのくらいあなたのことを想っている、という心情が歌われています。

 また2番のサビでも同様に

キレイなのは向日葵だけじゃない
他にも目立たない花も咲いてたのに
あなたじゃなきゃダメだと思った
愛しさを思い出す
Sunflower

と「向日葵」、つまり「あなた」以外にも「目立たない花も咲いていた」、つまり目立たないだけで他の人もいたしその中から選ぶこともできたのに、「私」にとっては「あなたじゃなきゃダメだ」ったという気持ちがあらわれています。

 このように最初に聴いたときは、歌い手である「私」が大好きだった「あなた」のことを向日葵に見立てて、「あなた」と過ごした夏の日々を思い出す……というような歌だと思いました。

 ところが何度も聴いているうちに、Cメロで「あれ?」となりました。

太陽をじっと見つめて
恋をする黄色い花
もうあなたのことしか
私には見えなかった

 ここで言われている「恋をする黄色い花」とはもちろん向日葵のことでしょう。向日葵は太陽をじっと見つめてひたむきに恋をしている。その姿は「あなた」のことしか見えなかった「私」のよう、ということでしょうか。
 しかしそうなると、今までは「向日葵」=「あなた」だった世界観に、Cメロで突然「向日葵」=「私」という構図が発生します。そして「私」が恋をしていた「あなた」は「太陽」である可能性が出てきます。
 でも今までの歌詞を踏まえると、「向日葵」なのは「私」じゃなくて「彼」のはず……。
 となるとこの歌の中では、基本的には「あなた」=「向日葵」なのに、Cメロのときだけ「私」=「向日葵」、「あなた」=「太陽」になるのでしょうか。
 でもそれってアリ?

 そこで他のパターンも考えてみました。

① 「私」=「向日葵」、「あなた」=「太陽」の場合

 まず歌全体を通して「私」が「向日葵」で「あなた」が「太陽」のパターン。この前提でサビの歌詞を解釈してみます。

夏の花は向日葵だけじゃない
いろんな種類の花が咲いてるのに
瞳を閉じると浮かんで来るのは
風の中 揺れている
Sunflower

 向日葵の花言葉は「私はあなただけを見つめる」です。これは向日葵の花が太陽の動きを追って花の向きを変えることに由来します。
 それを踏まえて「夏の花は向日葵だけじゃない いろんな種類の花が咲いてるのに」を解釈すると、「『私』は向日葵のように太陽である『あなた』だけを一途に追いかけて見つめないで、いろんな種類の花のように太陽以外の方向を向いていることもできたのに」という意味にとれます。そして「瞳を閉じると浮かんで来るのは 風の中 揺れている Sunflower」のところは、「それでも思い出してしまうのは、一途に『あなた』を思っていたころの『私』の姿」というふうにとることができます。

 では2番のサビはどうでしょう。

キレイなのは向日葵だけじゃない
他にも目立たない花も咲いてたのに
あなたじゃなきゃダメだと思った
愛しさを思い出す
Sunflower

 「キレイなのは向日葵だけじゃない 他にも目立たない花も咲いてたのに」のところは「向日葵みたいに太陽をじっと見つめて恋することだけじゃなく、他の目立たない花のようにひたむきじゃない恋の仕方もキレイなのに」ということで、「あなたじゃなきゃダメだと思った 愛しさを思い出す Sunflower」のところは「それでも『私』には太陽である『あなた』しか見えなかったし、愛しい気持ちは今でも思い出せる。『あなた』という『太陽』だけをじっと見つめる向日葵にしかなれなかった」ということなんでしょうか……?

 正直ちょっと意味がわかりません。深読みすぎな感が否めないというか。
 そのため歌全体を通して「私」が「向日葵」で「あなた」が「太陽」という解釈は厳しいように思われます。

② 「あなた」=「向日葵」の場合

 次に歌全体を通して「向日葵」=「あなた」のパターン。

太陽をじっと見つめて
恋をする黄色い花
もうあなたのことしか
私には見えなかった

 この場合Cメロを解釈しようとすると「私」は他にも「いろんな種類の花が咲いている」のに向日葵しか見えないくらい「あなた」に首ったけ、でも「あなた」は「太陽」、つまり別の女の子をじっと見つめて恋をしている……という「私」が他の人を想う「あなた」に片想いをしているシチュエーションが発生します。
 ですがここにきて突然第三者が現れるというのはちょっと変です。

 また2番のBメロに、

人はふと愛し合い別れて
何回 後悔するのでしょう?
気づかずに 涙するほど

 という歌詞があります。ここから推測するに、どうやら「私」と「あなた」は相思相愛だったんじゃないかなーと考えることができます。多分「私」と「あなた」は両想いで付き合っていたのだけど、別れることになったったんじゃないかな、と。だからこの「私」→「あなた」=「向日葵」→「太陽」というふうに好意が向いているという解釈には無理があります。
 うーん、となると歌全体を通して「向日葵」=「あなた」と考えるのも厳しい……?

 と、ここでもうひとつの可能性に気づきます。
 それは「太陽」が別の女の子ではなく「私」である、という解釈です。

③ 「あなた」=「向日葵」、「私」=「太陽」の場合

 そうするとCメロは「太陽である『私』をじっと見つめて恋をする黄色い花である『あなた』。そんな向日葵のように一途な『あなた』のことしか、太陽である『私』には見えなかった」ということになります。
 また1、2番のサビも、太陽である「私」の目線から向日葵である「あなた」のことを歌っていると解釈することができます。

 つまり「夏の花は向日葵だけじゃない」は、歌全体を通して「あなた」を「向日葵」に、「私」を「太陽」に見立てて展開されているのではないか、と考えることができます。

 この結論にたどり着いたとき、かなりびっくりしました。
 だって自分を太陽にたとえちゃうってすごくないですか? 「大きく出たなー!」という印象です。さすがやすす。

 でも考えてみると、アイドルってファンにとっては太陽みたいな存在ですよね。

 それに。


 赤いワンピースを着て木漏れ日の中、笑顔をこぼす今泉さんはたしかに太陽なのかも……という気持ちになりました。


 何はともあれ、私個人としては「夏の花は向日葵だけじゃない」は「他にもたくさんの花が太陽の光を受けて咲いているのに、どこまでも自分だけを見つめて咲いてくれた向日葵のことが忘れられない、太陽の恋の歌」だと思って聴くことにしようと思います。

 おしまい!


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